うちのオヤジがめでたくあの世に逝って、もう8年になります。気むずかしくて無口な昔の男だったので、子どもの頃はよく怒鳴られて、殴られたものでした。悪いことをして叱られるのは子ども心にも理解できるのですが、特に理由もなく理不尽に怒鳴られる事も多かったので、私はオヤジを嫌っていました。

そんな恐ろしいオヤジでしたが、日曜日だけは面白いオヤジになってくれました。どうも土曜日にのみ過ぎる傾向があったらしく、日曜日の朝はオヤジが弱っていて、いつまでも布団から出てこない事が多かったのです。

二階で寝ているオヤジの枕元にはチリ紙を入れた洗面器がおいてあり、今なら病気か何かだから放っておくところなのですが、幼児の私にはそんな大人の事情などわかりません。オヤジが動かない事をいいことに、次男の私が切り込み隊長となり、盛り上がった布団の上にダイビングして、山になったり谷になったりする不思議な布団と夢中になって遊んでいました。もちろん布団の下では寝込みを襲われたオヤジがのたうち回っています。

オヤジは無口な男ですから、そんな緊急時にも弁明することなく、無口なままプロレス技をかけてきてました。今思えば、よくあれで死ななかったものです。バックドロップの失敗作のような技をかけられて、そのまま抑え込まれ、カウント3つ取られて私は負けるのがいつものパターンです。毎回本気で悔しがって、いつかリベンジしようと、子ども心に決めたものです。

そうこうしているうちに、オヤジもだんだん元気づいてきます。そうするとオヤジの胃腸の方もつられて元気になるらしく、巨大なおならをしますから、我々子どもたちはそれを合図に、オヤジ完全復活宣言と受け取り、今度は容赦なくおもちゃも総動員してオヤジをやっつけにかかったものです。

もっともそのころにはおふくろにうるさいと怒鳴られ、オヤジともども降参して、おふくろと朝ごはんの待つ居間に降りていきました。どうってことのない朝食でしたが、何故かオヤジはかならず食事中におならをして、おふくろに嫌がられていました。同じものを食べているはずなのに他の家族とは違う独特な音でした。我々も調子にのっておならをわざと出してみようとしたのですが、そう都合よく出るものではなく、この時だけは、我々兄弟一同はゲラゲラ笑いながらオヤジの偉大なる名曲に関心していました。

胃腸と消化力が強いのか、オヤジは呑兵衛の癖に全然腹が出る事がなく、晩年も体脂肪率15%でスポーツジムで体を鍛えていました。私はオヤジと同じようなものを食べて、似たような仕事をしているにも変わらず体脂肪率30%を超える肥満体です。でも、最近気が付いたのですが、おならの音は、オヤジと同じなのですね。どうでもいい話ですが、ちょっと嬉しいような、情けないような、微妙な気持ちです。おならをするたびに、オヤジを思い出して、この腹回りの脂肪を分けてあげたい気持ちでいっぱいになります。